slowlife  山、日常の出来事など徒然なるままに・・・

名もなき峠(2020.9.13)

岩手と秋田の県境は、本州の脊梁とも言える奥羽山脈で隔てられている。

地勢図で奥羽山脈をたどると、少し小さめの文字で真昼山地と記された地域がある。

それはおおむね岩手県の沢内村(現:西和賀町沢内)の範囲と一致し、北端は和賀岳(1,440m)南端が真昼岳(1,059m)の辺りだ。

真昼岳より高い山があるのに、そして位置的にも中心ではないのに、なぜ山地の名前として「真昼岳」使われているのか。

山地と呼ぶのに高過ぎず低過ぎない標高が真昼岳だったからかもしれない。

あるいは、山頂に真昼山三輪神社が祀られ、信仰対象として地域との関りが最も深い山だったからだろうか。

 

真昼岳の北側には、岩手県の旧沢内村から秋田県の旧千畑町に通じる峰越え林道がある。

脊梁の峠に名前はなく、峠から稜線伝いに真昼岳に登ることができる。

登山としては最も楽なコースではあるが、麓から峠まで車で1時間近くかかり、特に林道走行は登山以上にスリリングかもしれない。

僕は20年以上前に、この峠から何度か真昼岳に登っている。

今回、それ以来で行ってみたくなり、事前に役場に道路状況を確認したところ、秋田県への通り抜けはできず、路面の洗堀された区間や藪のひどい区間があるものの、何とか登山口までは行くことができると教えていただいた。

これはジムニー乗りにとってはワクワクする状況だ。

 

林道は本格的な登りに差し掛かる手前まで、とても走りやすかった。

これは、近くで間伐作業している業者さんが林道を補修してくれているからだろう。

間伐で森林が整備され、業者さんにとって収入になり、林道の手入れもされる、まさに「三方良し」だ。

その先で2か所ほど通行止めの表示があるが、これは車高の低い車などが安易に進入するのを防ぐためで、いずれもきっちりと止めているわけではなく、あくまで自己責任でというサインだろう。

道路管理者に確認済みの僕は、そのまま進入するが、ドキドキ、ワクワクする。

念のため、長靴、スコップ、鋸、鉈を積んでいるので、少々のことなら自分で直してやるぐらいの気持ちでやってきた。

しかし、そのような必要はなく、仕事で見慣れた災害現場をイメージしていたので、正直だいぶ走りやすかった。

林道の標高が上るにつれて、眼下に湯田盆地が見えてくる。

標高850mまで上ってくると真昼山地の稜線も近く、青空が顔をのぞかせた。ジムニーだから見れる景色だ。

林道沿いに「はい積み」された間伐材。山村の大事な営みだ。
(林道沿いに「はい積み」された間伐材。山村の大事な営みだ。)
標高が上がり、遠くに湯田盆地方面が見えてきた。
(標高が上がり、遠くに湯田盆地方面が見えてきた。)
標高850m付近にて。真昼山地の稜線はすぐそこだ。
(標高850m付近にて。真昼山地の稜線はすぐそこだ。)

まもなく峰越え峠が見えるが、その手前で通行止めになっているので、少し戻って車を止める。名前のない峰越え峠は標高900mで、駐車場もある。

既に6台の車が止まっていて、セダンまである。どうやら秋田側からの道は余程整備されているようだ。

でも、僕はジムニーで上ってきたことに達成感を得ている。車で走ってきたのではなく一緒に登ってきたという感覚だ。

 

峠からの稜線は風が強く、残念ながら真昼岳山頂付近は雲の中だった。

秋田県側に目をやれば、日本海や男鹿半島までハッキリと見えた。

最初のピークを越えると、北真昼岳(1,006m)が見えてくる。

標高は1,000mそこそこしかないが、豪雪と烈風で磨かれたであろう斜面に樹木はなく、突き上げる谷に沿って柱状節理が発達したその光景は、真昼岳本峰より存在感がある。まるで日本アルプスの森林限界にいるようだ。

北真昼岳を少し過ぎたやや半端な場所には音動岳という標柱があった。以前にはなかったもので、今後は音動岳と呼ぶことにする。

音動岳から先は、ガスと強風の稜線歩きとなった。

しかし、時折ガスが途切れると、岩手側は森林が海原のように広がり、いかに山懐深くにいるかを感じるし、一方の秋田側は山里がすぐ手前まで迫るようで、人との距離の近さを感じる。

名もなき峰越え峠
(名もなき峰越え峠)
真昼岳を目指して稜線を歩き出す。
(真昼岳を目指して稜線を歩き出す。)
稜線から秋田県側を望む。遠く男鹿半島が見える。
(稜線から秋田県側を望む。遠く男鹿半島が見える。)
稜線から岩手県側は大海原のような森林地帯が続く。
(稜線から岩手県側は大海原のような森林地帯が続く。)
峰越え峠方面を振り返る。
(峰越え峠方面を振り返る。)
北真昼岳もとい音動岳。豪雪に磨かれた山肌が印象的だ。
(北真昼岳もとい音動岳。豪雪に磨かれた山肌が印象的だ。)

真昼岳山頂の小屋はかつてのものが新調され、小屋の中には真昼山三輪神社が建立されている。

麓の美郷町浪花に真昼山三輪神社があるので、ここが奥宮ということになるのだろう。

里が近くに見えるとはいえ、こんな不便なところで、近年になっても奥宮がきちんと守られているというのは素晴らしいと思う。

 

下山時、林道をジムニーで下っていると、ブナ林の中に小さな沼を見つけた。

車を降りて近づいてみる。下草のないブナ林の中にちょっと神秘的だ。

林道が舗装になり、やがて集落にさしかかると、まもなく真昼温泉がある。

かつてのものが建て替えられてからはまだ入ったことがない。

是非ひと汗流していきたいところだが別の機会にして県道1号線にでる。

 

西和賀というとリンドウ栽培が有名だが、今は道路沿いのソバの花が見ごろだ。

ジムニーを止めてしばし見入る。

満開の花畑から、甘い蜜のにおいが漂ってきた。

手軽にトレッキングが楽しめて、温泉にも入れるこの環境は、ソバ蜜ソフトでも近くで売り出したら、人気スポットになるのではないだろうか。

真昼岳山頂
(真昼岳山頂)
小屋の中にある真昼山三輪神社奥宮
(小屋の中にある真昼山三輪神社奥宮)
下山途中の林道脇で見つけたブナ林の沼
(下山途中の林道脇で見つけたブナ林の沼)
県道1号線沿いはソバ畑が多い。丁度花が満開だ。
(県道1号線沿いはソバ畑が多い。丁度花が満開だ。)
コメント: 37
  • #37

    ウエブマスター (木曜日, 22 7月 2021 15:34)

    昔の列車旅は、移動中も面白味がありました。駅にも「名所案内」の看板があり、駅名表示の下にも「●●郡●●村」とか書いてあるのが好きでした。

  • #36

    白州丸 (土曜日, 17 7月 2021 15:24)

    宮城〜岩手〜秋田〜青森と東北縦横断の旅堪能しました。沿線の温泉に入りたい!
    画像加工いいですね!!

  • #35

    ウエブマスター (金曜日, 16 7月 2021 23:49)

    私が描いたと言いたいところですが、撮った写真を加工したんですよー
    でも、文字は女流書家 泉に依頼したものです!

  • #34

    白州丸 (水曜日, 14 7月 2021 16:46)

    産業と共に生きた雫駅の歴史が分かります。駅舎のスケッチも良いですが因みに誰のタッチ?

  • #33

    ウエブマスター (土曜日, 13 3月 2021 11:08)

    徳永さん、了解しました!
    ウエブマスターまでメールいただければ地図を返信いたします!

  • #32

    徳永光保 (金曜日, 12 3月 2021 07:33)

    前山の記事 拝見しました。
    西和賀方面にこの時期にいけるところを探していたので興味があります。だいたい見当はつくのですが
    もしよろしかったらルートの地図をいただけないでしょうか。よろしくお願いします。

  • #31

    ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:38)

    chanmikiさん
    いらっしゃいませ!
    コメントありがとうございます。
    日付は更新日でモナドノックは20日にツアーしました。
    慣れていないと迷うと思うので、メールいただければ私の地図を送りますよ!

  • #30

    ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:28)

    白州丸さん
    長いことコメントに気付かずスミマセン
    東京は大変ですよね。
    ワカサギを食べさせてあげれないのが残念です。
    大願成就の次の回、長女と岩洞湖に行きましたが、またしても大漁でした!
    岩手は恵まれてますよ!

  • #29

    chanmiki (火曜日, 23 2月 2021 21:07)

    初めてコメントします。同じ小学校区、同じピアノ教室だったTです。
    数年前からこのブログを見つけて、感動!尊敬!たくさん学ばせて頂いています。
    本日23日も、「岩神山から田代牧場へ」を真似っこしようと行ったのですが、雪が少なそうで止め、区界駅2番ホームからの牧野へ行こうかとホームまで行きました。迷って結局、桐の木沢山へ行ったのですが、「モナドノック」を見てびっくり!
    でも本日23日じゃないですよね?天気から。
    私も単身赴任で106号を使っていたので、北上高地の、しかも地形のプロの記事、とても興味深く読んでいます。もちろん地元雫石のもです!

  • #28

    白州丸 (土曜日, 09 1月 2021 21:04)

    コロナ禍で気づく事も多く、人と接せず作業をする一次産業やステイホームで地元を考える機会も多苦なりそれが新しい日常と気づくかもしれません。地元愛と働く人に感謝¡¡

  • #27

    白州丸 (月曜日, 28 12月 2020 11:11)

    コロナ禍で始まったこの1年、地表ををすっかり覆ってしまう新雪はしばし巷のゴタゴタも忘れさせてくれます。

  • #26

    白州丸 (木曜日, 10 10月 2019 16:45)

    馬愛の結晶でしょうね!優しい表情が印象的です。

  • #25

    ウエブマスター (火曜日, 30 4月 2019 11:10)

    徳永様
    お久しぶりです!
    コメント有難うございます!
    丸森良かったですねー
    雪もたっぷりで何よりでした。
    そろそろクマさんがウロウロしているようです。先日大松倉で足跡を見ました。お互いに気を付けましょう!
    いつか、ウロコでご一緒したいです!

  • #24

    徳永光保 (日曜日, 21 4月 2019 20:05)

    以前 森林鉄道のツアーでお世話になりました徳永です。本日こちらで紹介されている丸森にうろこテレマークで行ってきました。雪もたっぷり残っていてブナの原生林の雰囲気もよく大変気に入りました。情報参考にさせていただきました。ありがとうございました。

  • #23

    ウエブマスター (日曜日, 22 4月 2018 19:07)

    家の前の桜はまだですが、盛岡はすでに満開。テレマークはこれからが良い季節ですよ!

  • #22

    白州丸 (日曜日, 15 4月 2018 15:59)

    今シーズンのテレマークもそろそろ終わり?桜も咲き始めましたあ?

  • #21

    ウエブマスター (土曜日, 07 5月 2016 12:18)

    白州丸さま
    宮古では恒例のuno大会も盛り上がりました!
    旧道歩きは発見があって楽しいですね!

  • #20

    白州丸 (木曜日, 05 5月 2016 16:03)

    1泊2日の宮古の充実した旅でしたね。女性3名を従え賑やかで大きな天候の崩れも無く良かったです。

  • #19

    白州丸 (日曜日, 06 3月 2016 10:50)

    親子の協力、ほのぼのとして少ない成果でも美味しさがギュット詰まっている事でしょう。

  • #18

    ウエブマスター (日曜日, 10 1月 2016 11:41)

    白州丸さま
    ジムニーで薪運搬!
    こういうのって、田舎暮らしならではの楽しさですね!

  • #17

    白州丸 (土曜日, 09 1月 2016 14:13)

    有り難いプレゼント、ジムニー大活躍ですね!!

  • #16

    白州丸 (土曜日, 26 9月 2015 17:10)

    手を加えた分だけ建物は答えてくれます、又達成感は喜びになるでしょう。

  • #15

    白州丸 (土曜日, 26 9月 2015)

    父と娘の縦走、紅葉が綺麗ですね、山ガールも頑張りましたね!!

  • #14

    白州丸 (土曜日, 15 8月 2015 15:52)

    見事に蘇りました、15年の歴史がしみ込んだテーブル作業中はいろんな思いも浮かんだ事でしょう。我が家は削って(多分電動鉋?)もらいましたが手作業はご苦労様でした。又新しい家族の歴史(汚れ?)が刻まれる事でしょう。帰ってきた家族もさぞびっくり!!

  • #13

    白州丸 (火曜日, 30 6月 2015 10:19)

    テーブル完成おめでとうございます。ここ迄秋田杉を利用できれば樹も喜んでいる事でしょう。無垢板は存在感ありますね!!このテーブルからどんな作品が出来るか楽しみですね

  • #12

    ウエブマスター (日曜日, 17 5月 2015 12:24)

    リタイヤじっちゃん様
    丸森制覇、おめでとうございます!私はタイミングを逃し、今年は行けず残念でしたが、動画を拝見させていただき、行った気になれました!それにしてもクマにはビックリ!!

  • #11

    リタイヤじっちゃん (火曜日, 12 5月 2015 09:27)

    ウエブマスターの丸森ツアー(2013.5.12)でアクセスルートを知ったのは昨年の夏ごろ、それから5月の連休が待ち遠しく長いものでした。途中熊さんの歓迎を受けましたが、楽しく登ることができました。情報ありがとうございました。来冬は須賀倉を頂戴します。(山行記録YouTube”丸森”)

  • #10

    ウエブマスター (水曜日, 29 4月 2015 07:49)

    史実探偵さま、コメント有難うございます。なるほど!奥が深そうですねー。

  • #9

    史実探偵:平素人 (日曜日, 26 4月 2015 00:02)

    はじめまして^^、ウエブ釜石鉱山で検索訪問しました。ホームのお写真を見て、これが私の広報する、『BC.2001年に地球を半周し東北へ降臨した巨大隕石の核!』 かと思うと胸のたかまりを覚えます。よろしかったら、myブログのカテゴリー;巨大隕石(5) &, 巨大津波(4)へ、どうぞ^^!

  • #8

    小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:24)

    シロハヤブサの続編に期待・・豊かな発想に拍手を送ります。

  • #7

    小岩じいじ (日曜日, 05 10月 2014 14:16)

    岩手の旅行記は風景写真の見事さと臨場感あふれる文章にいつも感心しています。次号を楽しみにしています。

  • #6

    小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:06)

    泉ちゃん堂々の3位入賞おめでとう。又1つ話題ができましたね。来年は優勝目指して下さい。

  • #5

    リタイヤじっちゃん (日曜日, 05 10月 2014 10:09)

    体力的に門馬コースは無理ですが、教えていただいた丸森には挑戦させて頂きます。尚、剣ヶ峰山行記録はyouTubeで公開してますがどなたとも知らず貴方の車ときのこ採りの3人には無料出演して頂いでおりますのであしからず。但し誰も見ませんが。(笑)

  • #4

    ウェブマスター (日曜日, 05 10月 2014 00:06)

    いやはや!
    ニアミスしていたわけですね、リタイヤじっちゃん様!やはり早池峰剣ヶ峰、いい山ですよねー!
    今度は、門馬コースにも久々にチャレンジしたいと思っています!

  • #3

    リタイヤじっちゃん  (水曜日, 01 10月 2014 18:16)

    久しぶりに覗いて見てびっくりしました。9月15日早池峰剣ヶ峰で好青年と交差したことを覚えております。あの時の白髪親父がじっちゃんです。初めて登りましたがいい山でした。

  • #2

    ウェブマスター (土曜日, 07 6月 2014 22:03)

    ritzさん、コメント有難うございます!
    阿部館山良かったですよ!来年も絶対行きます!その時お会いするかもしれませんね!今後ともこの隠れ家的HPをよろしくお願い致します!

  • #1

    ritz (火曜日, 03 6月 2014 00:16)

    はじめまして。
    4/13阿部館山の記事拝見しました。素晴らしいところですね。
    4月頭に櫃取湿原や青松葉山界隈を歩き(滑り)、斜面や森の雰囲気に感動しました。北上高地は初めて訪れましたが、また行ってみたいと思っています。
    これからも岩手の山滑りの記録、楽しみにしています。