階上岳は青森県と岩手県にまたがる標高739mの山で、岩手県側では種市岳と呼ばれる。
標高624mの「大開平」まで車道が通じており、登山の対象としては魅力を感じていなかった。
そんな階上岳に登ってみたいと意識するようになったのは、今年の春、南八甲田でのテレマークツアーを終えて久慈へと戻る車中でのことだった。
八戸市街地を運転している時、遥か前方に夕暮れの中でたおやかな山並みがシルエットを浮かびたたせていた。
その圧倒的な存在感に心惹かれた。あれが階上岳だとすぐに分かった。
階上岳に登るのであれば、ぜひ八戸線に乗って、駅から登ろうと思った。八戸線は鮫駅から久慈駅間の利用客が少なく、存続が危ぶまれているからだ。
しかし、なかなかスケジュールの都合がつかず、紅葉も終わり、初雪の便りが聞かれる11月下旬になってようやく機会が訪れた。
八戸線の角の浜駅または階上駅から階上岳までは「みちのく潮風トレイル」が設定されているが、距離や歩行時間などの情報がなく、地図で見る限りかなり健脚向きのコースだ。
日が短い時期なので、途中の神社などゆっくり見学する余裕はないのではないか、今年初めての山行で、自分に踏破できるのだろうか、などと不安でドキドキする。
でも、そんなドキドキ感もまた旅の楽しさでもある。
久慈駅5時55分発の初発列車に乗る。まだ日の出前で辺りは薄暗いが、明るいうちに下山するために最善を尽くした格好だ。
今日は祝日(勤労感謝の日)だけど、乗客は自分を含め2人しかいなかった。
陸中中野駅で日の出となり、この先、有家駅を経て陸中八木駅までの区間は幻想的な車窓風景が目を楽しませてくれる。車を運転していたらこうはいかない。
登山口となる角の浜駅は岩手県最北端の駅だ。
手元のGPSが示す標高は29mで、限りなく海に近い。
ここから標高739mの山頂を目指す長い道のりが始まる。
ちなみに、階上岳は北上高地最北端の山と言われており、逆に、最南端の山は室根山(895m)と言われ、以前、大船渡線の折壁駅から登っているので、今回登頂に成功すれば最北端、最高所(早池峰山1,917m)、最南端の3座を制覇したことになる。
待合室だけの簡素なホームに降り立つのは自分だけで、この時点では6名ほどの乗客がいたようだ。
早速、階上岳に向かって歩き出す。前方にそれっぽい雰囲気の山が見えるけれど、これは前衛の山で、階上岳は遥か彼方にあって、当分望むことはできない。
たおやかな山容の階上岳を久慈駅発の八戸線の車窓から確認するのは困難で、種市駅を出てすぐのわずかな区間で遥か彼方に見えるのがそれだ。
しかし、道脇には庚申塔や小祠、道祖神などが点在しており、階上岳が信仰の対象であるとともに、駅から延びるこの道も、かつて多くの人が山頂を目指して歩いたであろうことが想像できる。この辺りの地名も「道仏」といい、いかにもという感じがする。
途中、「大銀杏の木」に寄り道する。この木は青森県の天然記念物に指定されている。
その先の「寺下観音堂」は奥州南部糠部三十三ケ所巡礼の一番札所だそうで、実に歴史と風情のある場所だ。小京都的な雰囲気があり、紅葉の時期はかなり賑わうのではないだろうか。
ゆっくり見学したいところだけど、足早に御参りを済ませ、その先へ山道を進む。
山道が終わり舗装道路に合流するとまだ標高195mで、ここから先でいよいよ本格的に高度を稼ぐことになる。
しばらくは急な舗装道路をひらすらに歩くが、紅葉シーズンが終わったせいか、車は1台も走っておらず、静かで快適に歩くことができた。
道路脇の渓流に目をやると、時折、巨大な玉石があり、いかにも花崗岩の山だなと思う。行者ならいちいち名前を付けそうな巨岩だ。
標高410m付近で舗装道路と分かれ、未舗装の林道を登る。
寺下観音を出て以降、眺望らしきものは一切望めず、ただひたすらに標高を稼ぐことに徹しているが、かつての行者の追体験をしていると思えば、それも山行のアクセントだ。
次第に周囲の木々の高さが低くなり、空が広くなってくると、前方にアンテナ施設が出現し、放牧場に飛び出る。振り返れば太平洋も見える。
途端に景色が開け、八戸市街や雪化粧した八甲田山系、遠くはむつ市まで眺望できる。
それまでと打って変わり、とても開放的で良い気分だ。
そしてようやく目標の階上岳が望まれるようになる。
駐車場のある鞍部まで一旦下り、そこから大開平まで登り返すが、このコース中での階上岳の眺めはこの辺りからが最も素晴らしい(というかここが唯一と言ってもよい)。
大開平は展望台があり、やはり八戸市街方面の眺めが良い。
駐車場もあり、ここまでで登山者に会うことは無かったけれど、ここから階上岳山頂にかけてはハイカーもそこそこいた。
ここから先は整備された登山道となる。
林内も藪が刈り払われたばかりのようで、スッキリして気持ちよかった。
階上岳山頂には小さな祠が祀られており、ここでも御参りする。
展望台があり、やはり八戸市街方面の眺めが良い。
階上岳の標高は739m、角の浜駅の標高は29m、ここまで標高差710mを登り切っただけでも達成感は十分だが、今回はこの先の南岳まで歩く。
階上岳は船底のような山頂で頂上部分が南北に延び、南岳も標高739mなので、やはりここも制覇しなければ階上岳を完全制覇したとは言い切れないような気がしたからだ。
ちなみに、みちのく潮風トレイルとしては、階上岳までである。
階上岳から先の道は、普通の登山道で、ここまでの路に比べるとかなり細い。
また、南岳という名称は国土地理院の地形図には無く、道標にも1箇所テプラで貼ってあるのが読めた以外には確認できなかった。
南岳との鞍部を過ぎて、少し登り返すと、登山道から東に分岐する踏み跡があり、その先に太平洋を一望する好展望地がある。
「お一人様専用」と言う感じで木製のベンチがしつらえてあり、展望を独り占めできる。
大開平や階上岳山頂からの眺望では、どうしても八戸市街地など人工物が目立ってしまうけれど、こちらは太平洋がメインで、山裾に広がる洋野町種市の山村風景も相まって、歩いて登ってきた後に眺める風景としては断然良い。
そして、その先の南岳山頂(山名板はない)からは、雪化粧した岩手山と、その手前に折爪岳が意外な大きさで望まれた。
南の方角へ展望が開けるのはここへ来て初めてであり、最後の最後での意外ともいえる展開は感動的だ。
階上岳に登るのであれば、ぜひ南岳へも足を延ばしていただきたい。
下山は、列車時刻の関係もあり、寄り道せずに足早に下山した。
お陰で角の浜駅15時17分発の列車に乗ることができ、明るいうちに久慈に着くことができた。
【参考データ】
歩行距離:往復26km
所要時間:
角の浜駅(51)大銀杏の木(40)寺下観音(50)舗装道路(38)林道(27)放牧地(33)大開平(22)階上岳(21)南岳(18)階上岳(17)大開平(23)放牧地(20)舗装道路(27)砂利道(14)寺下観音(51)角の浜駅
合計7時間32分 ※参拝時間を含む
ウエブマスター (木曜日, 22 7月 2021 15:34)
昔の列車旅は、移動中も面白味がありました。駅にも「名所案内」の看板があり、駅名表示の下にも「●●郡●●村」とか書いてあるのが好きでした。
白州丸 (土曜日, 17 7月 2021 15:24)
宮城〜岩手〜秋田〜青森と東北縦横断の旅堪能しました。沿線の温泉に入りたい!
画像加工いいですね!!
ウエブマスター (金曜日, 16 7月 2021 23:49)
私が描いたと言いたいところですが、撮った写真を加工したんですよー
でも、文字は女流書家 泉に依頼したものです!
白州丸 (水曜日, 14 7月 2021 16:46)
産業と共に生きた雫駅の歴史が分かります。駅舎のスケッチも良いですが因みに誰のタッチ?
ウエブマスター (土曜日, 13 3月 2021 11:08)
徳永さん、了解しました!
ウエブマスターまでメールいただければ地図を返信いたします!
徳永光保 (金曜日, 12 3月 2021 07:33)
前山の記事 拝見しました。
西和賀方面にこの時期にいけるところを探していたので興味があります。だいたい見当はつくのですが
もしよろしかったらルートの地図をいただけないでしょうか。よろしくお願いします。
ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:38)
chanmikiさん
いらっしゃいませ!
コメントありがとうございます。
日付は更新日でモナドノックは20日にツアーしました。
慣れていないと迷うと思うので、メールいただければ私の地図を送りますよ!
ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:28)
白州丸さん
長いことコメントに気付かずスミマセン
東京は大変ですよね。
ワカサギを食べさせてあげれないのが残念です。
大願成就の次の回、長女と岩洞湖に行きましたが、またしても大漁でした!
岩手は恵まれてますよ!
chanmiki (火曜日, 23 2月 2021 21:07)
初めてコメントします。同じ小学校区、同じピアノ教室だったTです。
数年前からこのブログを見つけて、感動!尊敬!たくさん学ばせて頂いています。
本日23日も、「岩神山から田代牧場へ」を真似っこしようと行ったのですが、雪が少なそうで止め、区界駅2番ホームからの牧野へ行こうかとホームまで行きました。迷って結局、桐の木沢山へ行ったのですが、「モナドノック」を見てびっくり!
でも本日23日じゃないですよね?天気から。
私も単身赴任で106号を使っていたので、北上高地の、しかも地形のプロの記事、とても興味深く読んでいます。もちろん地元雫石のもです!
白州丸 (土曜日, 09 1月 2021 21:04)
コロナ禍で気づく事も多く、人と接せず作業をする一次産業やステイホームで地元を考える機会も多苦なりそれが新しい日常と気づくかもしれません。地元愛と働く人に感謝¡¡
白州丸 (月曜日, 28 12月 2020 11:11)
コロナ禍で始まったこの1年、地表ををすっかり覆ってしまう新雪はしばし巷のゴタゴタも忘れさせてくれます。
白州丸 (木曜日, 10 10月 2019 16:45)
馬愛の結晶でしょうね!優しい表情が印象的です。
ウエブマスター (火曜日, 30 4月 2019 11:10)
徳永様
お久しぶりです!
コメント有難うございます!
丸森良かったですねー
雪もたっぷりで何よりでした。
そろそろクマさんがウロウロしているようです。先日大松倉で足跡を見ました。お互いに気を付けましょう!
いつか、ウロコでご一緒したいです!
徳永光保 (日曜日, 21 4月 2019 20:05)
以前 森林鉄道のツアーでお世話になりました徳永です。本日こちらで紹介されている丸森にうろこテレマークで行ってきました。雪もたっぷり残っていてブナの原生林の雰囲気もよく大変気に入りました。情報参考にさせていただきました。ありがとうございました。
ウエブマスター (日曜日, 22 4月 2018 19:07)
家の前の桜はまだですが、盛岡はすでに満開。テレマークはこれからが良い季節ですよ!
白州丸 (日曜日, 15 4月 2018 15:59)
今シーズンのテレマークもそろそろ終わり?桜も咲き始めましたあ?
ウエブマスター (土曜日, 07 5月 2016 12:18)
白州丸さま
宮古では恒例のuno大会も盛り上がりました!
旧道歩きは発見があって楽しいですね!
白州丸 (木曜日, 05 5月 2016 16:03)
1泊2日の宮古の充実した旅でしたね。女性3名を従え賑やかで大きな天候の崩れも無く良かったです。
白州丸 (日曜日, 06 3月 2016 10:50)
親子の協力、ほのぼのとして少ない成果でも美味しさがギュット詰まっている事でしょう。
ウエブマスター (日曜日, 10 1月 2016 11:41)
白州丸さま
ジムニーで薪運搬!
こういうのって、田舎暮らしならではの楽しさですね!
白州丸 (土曜日, 09 1月 2016 14:13)
有り難いプレゼント、ジムニー大活躍ですね!!
白州丸 (土曜日, 26 9月 2015 17:10)
手を加えた分だけ建物は答えてくれます、又達成感は喜びになるでしょう。
白州丸 (土曜日, 26 9月 2015)
父と娘の縦走、紅葉が綺麗ですね、山ガールも頑張りましたね!!
白州丸 (土曜日, 15 8月 2015 15:52)
見事に蘇りました、15年の歴史がしみ込んだテーブル作業中はいろんな思いも浮かんだ事でしょう。我が家は削って(多分電動鉋?)もらいましたが手作業はご苦労様でした。又新しい家族の歴史(汚れ?)が刻まれる事でしょう。帰ってきた家族もさぞびっくり!!
白州丸 (火曜日, 30 6月 2015 10:19)
テーブル完成おめでとうございます。ここ迄秋田杉を利用できれば樹も喜んでいる事でしょう。無垢板は存在感ありますね!!このテーブルからどんな作品が出来るか楽しみですね
ウエブマスター (日曜日, 17 5月 2015 12:24)
リタイヤじっちゃん様
丸森制覇、おめでとうございます!私はタイミングを逃し、今年は行けず残念でしたが、動画を拝見させていただき、行った気になれました!それにしてもクマにはビックリ!!
リタイヤじっちゃん (火曜日, 12 5月 2015 09:27)
ウエブマスターの丸森ツアー(2013.5.12)でアクセスルートを知ったのは昨年の夏ごろ、それから5月の連休が待ち遠しく長いものでした。途中熊さんの歓迎を受けましたが、楽しく登ることができました。情報ありがとうございました。来冬は須賀倉を頂戴します。(山行記録YouTube”丸森”)
ウエブマスター (水曜日, 29 4月 2015 07:49)
史実探偵さま、コメント有難うございます。なるほど!奥が深そうですねー。
史実探偵:平素人 (日曜日, 26 4月 2015 00:02)
はじめまして^^、ウエブ釜石鉱山で検索訪問しました。ホームのお写真を見て、これが私の広報する、『BC.2001年に地球を半周し東北へ降臨した巨大隕石の核!』 かと思うと胸のたかまりを覚えます。よろしかったら、myブログのカテゴリー;巨大隕石(5) &, 巨大津波(4)へ、どうぞ^^!
小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:24)
シロハヤブサの続編に期待・・豊かな発想に拍手を送ります。
小岩じいじ (日曜日, 05 10月 2014 14:16)
岩手の旅行記は風景写真の見事さと臨場感あふれる文章にいつも感心しています。次号を楽しみにしています。
小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:06)
泉ちゃん堂々の3位入賞おめでとう。又1つ話題ができましたね。来年は優勝目指して下さい。
リタイヤじっちゃん (日曜日, 05 10月 2014 10:09)
体力的に門馬コースは無理ですが、教えていただいた丸森には挑戦させて頂きます。尚、剣ヶ峰山行記録はyouTubeで公開してますがどなたとも知らず貴方の車ときのこ採りの3人には無料出演して頂いでおりますのであしからず。但し誰も見ませんが。(笑)
ウェブマスター (日曜日, 05 10月 2014 00:06)
いやはや!
ニアミスしていたわけですね、リタイヤじっちゃん様!やはり早池峰剣ヶ峰、いい山ですよねー!
今度は、門馬コースにも久々にチャレンジしたいと思っています!
リタイヤじっちゃん (水曜日, 01 10月 2014 18:16)
久しぶりに覗いて見てびっくりしました。9月15日早池峰剣ヶ峰で好青年と交差したことを覚えております。あの時の白髪親父がじっちゃんです。初めて登りましたがいい山でした。
ウェブマスター (土曜日, 07 6月 2014 22:03)
ritzさん、コメント有難うございます!
阿部館山良かったですよ!来年も絶対行きます!その時お会いするかもしれませんね!今後ともこの隠れ家的HPをよろしくお願い致します!
ritz (火曜日, 03 6月 2014 00:16)
はじめまして。
4/13阿部館山の記事拝見しました。素晴らしいところですね。
4月頭に櫃取湿原や青松葉山界隈を歩き(滑り)、斜面や森の雰囲気に感動しました。北上高地は初めて訪れましたが、また行ってみたいと思っています。
これからも岩手の山滑りの記録、楽しみにしています。