snowdays

馬っ子大雪渓(2010.5.16)

我が家から見える秋田駒ケ岳にも、だいぶ黒い部分が増えてきた。
もうそろそろ、駒形の雪形が現れる頃だ。
いつも見慣れたその風景に、気になる雪渓がある。
丁度、駒形の雪形で言えば、後脚の部分を囲む雪渓だ。
いつか滑ってみたいと思っていたその雪渓に、チャレンジしてみることにした。

自宅付近から見る秋田駒ケ岳。丸囲いが駒形で、右に頭。赤点線が今回のコース
(自宅付近から見る秋田駒ケ岳。丸囲いが駒形で、右に頭。赤点線が今回のコース)

国見温泉まで通じる県道の冬の通行止めが解除された最初の日曜日、国見温泉の駐車場には既にたくさんの車が止まっていた。
家から30分の距離なので、ゆっくり出てきたこともあるかもしれないが、温泉客や秋田駒ケ岳への登山客、山菜採りなど、多くの人たちが来ているようだ。
けれど、スキー登山の人は少なく、さらにテレマークスキーについては、結果的に僕だけだった。
「あんなに美味しそうな雪渓があるのに・・・」
不思議な気がしてならない。

 

出だしのブナ林は、登りは特に問題ないけれど、下山時に迷いやすいので、地形を覚えるとともに、GPSで位置を登録しておく。
そしてこのツアーでは、GPSやコンパスの他に、もう一つ必携のものがある。
それはクマ鈴だ。
何年か前に、国見温泉から横長根に上がる途中で、クマを目撃したことがある。
その時はこちらが気づく前に、クマの方が先に僕のクマ鈴に気付いたのか、すでに逃げ去るところだった。
今年は残雪が少なく、ブナの樹林帯は笹薮も多くなっている。
クマ鈴でもなければ、鉢合わせする可能性は高い。

ブナ林
(ブナ林)

標高1,100m地点で、シュートに出くわす。
稜線の横長根まではもうすぐだ。
今日は天気も良く、早池峰山や羽後朝日岳など和賀山塊の山々も全て望むことができる。
我が家から見た馬っ子の雪渓はどの辺りだろうかと探す。
そして、横長根に出たとき、眼前にふいに駒ケ岳本峰が現れてビックリする。
横長根に出れば駒ケ岳が眼の前にあることは、地図を見れば一目瞭然だけれど、馬っ子雪渓のことばかり考え、駒ケ岳本峰のことは考えていなかったので、眼前に広がるその眺めは感動的だった。

横長根、国見温泉分岐付近からシュートを見下ろす
(横長根、国見温泉分岐付近からシュートを見下ろす)
秋田駒ケ岳【女岳】を眺めながら進む。
(秋田駒ケ岳【女岳】を眺めながら進む。)
和賀山塊。中央が羽後朝日岳
(和賀山塊。中央が羽後朝日岳)

横長根に出てすぐに、田沢湖が見えてきた。
これらの絶景を眺めるだけでも、ここをツアーする価値は十分にあるなと、気持ちが変わってきた。
しばらく横長根を登ると、雪が途切れだし、所々スキーを外して歩かざるを得なくなった。
途中で雪渓もあったけれど、我が家から見たのに比べ、随分スケールが小さいように思えた。
雪渓は思っていたよりも上の方にあるようだ。
そうして歩いているうちに、第2展望台に到着した。
ここまで来れば、大焼砂は眼と鼻の先だ。

もっと気楽にと考えていただけに、随分と登ってきたものだなと思う。
第2展望台のすぐ先で、右手に残雪が近づいてくる。
目指す雪渓はこの近くにあるはずと思い、右手の雪渓をトラバース気味に登る。
すると眼前に岩手山が姿を現し始めた。
なんという贅沢な景色だろう。
歩みを進めるにつれ、岩手山は大きくなってくる。
そして遥か下界には、雫石の町並みも望まれるようになってくる。
ここからは我が家も間違いなく見えているはずで、いよいよ目指す雪渓が近いことを確信する。

第2展望台から秋田駒ケ岳を見る。
(第2展望台から秋田駒ケ岳を見る。)

そして、ついにその雪渓は現れた。
島状に現れた黒い火山礫を取り囲むように雪渓は広がっている。
幅はさほど広くはないけれど、長さは滑るのに十分な大雪渓だ。
斜度は下界から見たほどきつくはない。
場所は大焼砂沢の一つ南の支流の源頭部に当たる斜面だ。
本日最初にして最大の見せ場といえる大雪渓の滑降に、気を引き締めて挑む。
雪渓の上部は雪質もザラメで楽にターンできたけれど、中盤からは昨夜?の新雪で、腐れ気味の雪質に注意しながらバランスをとる。
腐れ雪ゾーンに入り、3ターン目のところで、バランスを崩し転倒した。
もう少しで雪渓の下端までたどり着くところだったのでくやしい。

目指す雪渓は真ん中のライン。背景には岩手山
(目指す雪渓は真ん中のライン。背景には岩手山)
馬っ子大雪渓を上から見下ろす。
(馬っ子大雪渓を上から見下ろす。)

しかし、残り数ターンを滑るときに、ふいに突いたダブルストックが思いのほか安定し、予想外の収穫に嬉しくなった。
「これは帰りの斜面で使える」との期待を抱きつつ、大雪渓の下端でお昼にする。
数日前に下から登ってきたクマの足跡がある。
この場所は、雪がない限り人間が踏み入れることはないだろうし、僕のような物好きが、そんなに頻繁に現れるとは考えにくい。
そんなことを思いながら、ふと見上げた空に、彩雲が美しかった。

 

ステップソールはこの急斜面をシールなしで登り返す。
横長根に合流すると、来た道を国見温泉分岐まで戻る。
今度は田沢湖と、遠く鳥海山を眺めながらの下山だ。

和賀山塊を正面に見ながら外輪山を滑降する。
(和賀山塊を正面に見ながら外輪山を滑降する。)
横長根から田沢湖を望む。
(横長根から田沢湖を望む。)
少し滑ってはトラバースして登り返す。
(少し滑ってはトラバースして登り返す。)

国見温泉分岐からは南東方向に伸びるシュートをめがけて滑り込む。
幅の狭いシュートでは、先ほどのダブルストックが威力を発揮し、ショートターンを刻む。
シーズンの最後で新しい感覚を得て、来シーズンが今から楽しみになる。
このシュートを2回ほど登り返して滑り、国見温泉に戻ることにする。
下山のブナ林は地形的な特徴がなく、特にテープなどの目印もないので、やはりGPSが頼りになる。

無事に下山し、帰りの車中から駒ケ岳を振り返る。
新緑の中、青空に映える稜線に、自分の滑った大雪渓が見えた。
来年も、馬っ子の大雪渓を滑りに来ようと思う。

シュートで遊ぶ。
(シュートで遊ぶ。)
自分が滑った大雪渓を振り返る。
(自分が滑った大雪渓を振り返る。)
コメント: 37
  • #37

    ウエブマスター (木曜日, 22 7月 2021 15:34)

    昔の列車旅は、移動中も面白味がありました。駅にも「名所案内」の看板があり、駅名表示の下にも「●●郡●●村」とか書いてあるのが好きでした。

  • #36

    白州丸 (土曜日, 17 7月 2021 15:24)

    宮城〜岩手〜秋田〜青森と東北縦横断の旅堪能しました。沿線の温泉に入りたい!
    画像加工いいですね!!

  • #35

    ウエブマスター (金曜日, 16 7月 2021 23:49)

    私が描いたと言いたいところですが、撮った写真を加工したんですよー
    でも、文字は女流書家 泉に依頼したものです!

  • #34

    白州丸 (水曜日, 14 7月 2021 16:46)

    産業と共に生きた雫駅の歴史が分かります。駅舎のスケッチも良いですが因みに誰のタッチ?

  • #33

    ウエブマスター (土曜日, 13 3月 2021 11:08)

    徳永さん、了解しました!
    ウエブマスターまでメールいただければ地図を返信いたします!

  • #32

    徳永光保 (金曜日, 12 3月 2021 07:33)

    前山の記事 拝見しました。
    西和賀方面にこの時期にいけるところを探していたので興味があります。だいたい見当はつくのですが
    もしよろしかったらルートの地図をいただけないでしょうか。よろしくお願いします。

  • #31

    ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:38)

    chanmikiさん
    いらっしゃいませ!
    コメントありがとうございます。
    日付は更新日でモナドノックは20日にツアーしました。
    慣れていないと迷うと思うので、メールいただければ私の地図を送りますよ!

  • #30

    ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:28)

    白州丸さん
    長いことコメントに気付かずスミマセン
    東京は大変ですよね。
    ワカサギを食べさせてあげれないのが残念です。
    大願成就の次の回、長女と岩洞湖に行きましたが、またしても大漁でした!
    岩手は恵まれてますよ!

  • #29

    chanmiki (火曜日, 23 2月 2021 21:07)

    初めてコメントします。同じ小学校区、同じピアノ教室だったTです。
    数年前からこのブログを見つけて、感動!尊敬!たくさん学ばせて頂いています。
    本日23日も、「岩神山から田代牧場へ」を真似っこしようと行ったのですが、雪が少なそうで止め、区界駅2番ホームからの牧野へ行こうかとホームまで行きました。迷って結局、桐の木沢山へ行ったのですが、「モナドノック」を見てびっくり!
    でも本日23日じゃないですよね?天気から。
    私も単身赴任で106号を使っていたので、北上高地の、しかも地形のプロの記事、とても興味深く読んでいます。もちろん地元雫石のもです!

  • #28

    白州丸 (土曜日, 09 1月 2021 21:04)

    コロナ禍で気づく事も多く、人と接せず作業をする一次産業やステイホームで地元を考える機会も多苦なりそれが新しい日常と気づくかもしれません。地元愛と働く人に感謝¡¡

  • #27

    白州丸 (月曜日, 28 12月 2020 11:11)

    コロナ禍で始まったこの1年、地表ををすっかり覆ってしまう新雪はしばし巷のゴタゴタも忘れさせてくれます。

  • #26

    白州丸 (木曜日, 10 10月 2019 16:45)

    馬愛の結晶でしょうね!優しい表情が印象的です。

  • #25

    ウエブマスター (火曜日, 30 4月 2019 11:10)

    徳永様
    お久しぶりです!
    コメント有難うございます!
    丸森良かったですねー
    雪もたっぷりで何よりでした。
    そろそろクマさんがウロウロしているようです。先日大松倉で足跡を見ました。お互いに気を付けましょう!
    いつか、ウロコでご一緒したいです!

  • #24

    徳永光保 (日曜日, 21 4月 2019 20:05)

    以前 森林鉄道のツアーでお世話になりました徳永です。本日こちらで紹介されている丸森にうろこテレマークで行ってきました。雪もたっぷり残っていてブナの原生林の雰囲気もよく大変気に入りました。情報参考にさせていただきました。ありがとうございました。

  • #23

    ウエブマスター (日曜日, 22 4月 2018 19:07)

    家の前の桜はまだですが、盛岡はすでに満開。テレマークはこれからが良い季節ですよ!

  • #22

    白州丸 (日曜日, 15 4月 2018 15:59)

    今シーズンのテレマークもそろそろ終わり?桜も咲き始めましたあ?

  • #21

    ウエブマスター (土曜日, 07 5月 2016 12:18)

    白州丸さま
    宮古では恒例のuno大会も盛り上がりました!
    旧道歩きは発見があって楽しいですね!

  • #20

    白州丸 (木曜日, 05 5月 2016 16:03)

    1泊2日の宮古の充実した旅でしたね。女性3名を従え賑やかで大きな天候の崩れも無く良かったです。

  • #19

    白州丸 (日曜日, 06 3月 2016 10:50)

    親子の協力、ほのぼのとして少ない成果でも美味しさがギュット詰まっている事でしょう。

  • #18

    ウエブマスター (日曜日, 10 1月 2016 11:41)

    白州丸さま
    ジムニーで薪運搬!
    こういうのって、田舎暮らしならではの楽しさですね!

  • #17

    白州丸 (土曜日, 09 1月 2016 14:13)

    有り難いプレゼント、ジムニー大活躍ですね!!

  • #16

    白州丸 (土曜日, 26 9月 2015 17:10)

    手を加えた分だけ建物は答えてくれます、又達成感は喜びになるでしょう。

  • #15

    白州丸 (土曜日, 26 9月 2015)

    父と娘の縦走、紅葉が綺麗ですね、山ガールも頑張りましたね!!

  • #14

    白州丸 (土曜日, 15 8月 2015 15:52)

    見事に蘇りました、15年の歴史がしみ込んだテーブル作業中はいろんな思いも浮かんだ事でしょう。我が家は削って(多分電動鉋?)もらいましたが手作業はご苦労様でした。又新しい家族の歴史(汚れ?)が刻まれる事でしょう。帰ってきた家族もさぞびっくり!!

  • #13

    白州丸 (火曜日, 30 6月 2015 10:19)

    テーブル完成おめでとうございます。ここ迄秋田杉を利用できれば樹も喜んでいる事でしょう。無垢板は存在感ありますね!!このテーブルからどんな作品が出来るか楽しみですね

  • #12

    ウエブマスター (日曜日, 17 5月 2015 12:24)

    リタイヤじっちゃん様
    丸森制覇、おめでとうございます!私はタイミングを逃し、今年は行けず残念でしたが、動画を拝見させていただき、行った気になれました!それにしてもクマにはビックリ!!

  • #11

    リタイヤじっちゃん (火曜日, 12 5月 2015 09:27)

    ウエブマスターの丸森ツアー(2013.5.12)でアクセスルートを知ったのは昨年の夏ごろ、それから5月の連休が待ち遠しく長いものでした。途中熊さんの歓迎を受けましたが、楽しく登ることができました。情報ありがとうございました。来冬は須賀倉を頂戴します。(山行記録YouTube”丸森”)

  • #10

    ウエブマスター (水曜日, 29 4月 2015 07:49)

    史実探偵さま、コメント有難うございます。なるほど!奥が深そうですねー。

  • #9

    史実探偵:平素人 (日曜日, 26 4月 2015 00:02)

    はじめまして^^、ウエブ釜石鉱山で検索訪問しました。ホームのお写真を見て、これが私の広報する、『BC.2001年に地球を半周し東北へ降臨した巨大隕石の核!』 かと思うと胸のたかまりを覚えます。よろしかったら、myブログのカテゴリー;巨大隕石(5) &, 巨大津波(4)へ、どうぞ^^!

  • #8

    小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:24)

    シロハヤブサの続編に期待・・豊かな発想に拍手を送ります。

  • #7

    小岩じいじ (日曜日, 05 10月 2014 14:16)

    岩手の旅行記は風景写真の見事さと臨場感あふれる文章にいつも感心しています。次号を楽しみにしています。

  • #6

    小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:06)

    泉ちゃん堂々の3位入賞おめでとう。又1つ話題ができましたね。来年は優勝目指して下さい。

  • #5

    リタイヤじっちゃん (日曜日, 05 10月 2014 10:09)

    体力的に門馬コースは無理ですが、教えていただいた丸森には挑戦させて頂きます。尚、剣ヶ峰山行記録はyouTubeで公開してますがどなたとも知らず貴方の車ときのこ採りの3人には無料出演して頂いでおりますのであしからず。但し誰も見ませんが。(笑)

  • #4

    ウェブマスター (日曜日, 05 10月 2014 00:06)

    いやはや!
    ニアミスしていたわけですね、リタイヤじっちゃん様!やはり早池峰剣ヶ峰、いい山ですよねー!
    今度は、門馬コースにも久々にチャレンジしたいと思っています!

  • #3

    リタイヤじっちゃん  (水曜日, 01 10月 2014 18:16)

    久しぶりに覗いて見てびっくりしました。9月15日早池峰剣ヶ峰で好青年と交差したことを覚えております。あの時の白髪親父がじっちゃんです。初めて登りましたがいい山でした。

  • #2

    ウェブマスター (土曜日, 07 6月 2014 22:03)

    ritzさん、コメント有難うございます!
    阿部館山良かったですよ!来年も絶対行きます!その時お会いするかもしれませんね!今後ともこの隠れ家的HPをよろしくお願い致します!

  • #1

    ritz (火曜日, 03 6月 2014 00:16)

    はじめまして。
    4/13阿部館山の記事拝見しました。素晴らしいところですね。
    4月頭に櫃取湿原や青松葉山界隈を歩き(滑り)、斜面や森の雰囲気に感動しました。北上高地は初めて訪れましたが、また行ってみたいと思っています。
    これからも岩手の山滑りの記録、楽しみにしています。