大小屋山は雫石町の鶯宿温泉の奥にあり、西和賀町との境に位置する標高640mの山だ。
登山道はなく、一部が鶯宿天然杉植物群落保護林に指定されていて、標高の低さとは関係なしに原生的な自然の奥深さを感じることができる篤志家限定ハイキングコースとでも言えようか。
鶯宿温泉を通り抜け、鶯宿ダムを過ぎて、舗装された道路をしばらく進むと、右手に鶯宿天然杉植物群落保護林の看板が見えてくる。
ここが大小屋山の入口だ。
徒渉して大小屋沢に沿って遡上する。
途中までは古い作業道があるので道に迷うことはないが、一部が沢と化していたり、薮が酷かったり、崩壊箇所や土砂で埋まっている箇所があるので、それなりの覚悟が必要だ。
植生は天然スギが中心だけれど、最初のうちはそれほど立派なものは見られない。
むしろカツラやミズナラの巨木の方が目を見張る。
しかし、奥へ進むに連れて、天然スギにも特徴が感じられるようになる。
鶯宿天然スギの外見上の特徴は、根上がりすること、株立ちすること、根元曲がりが少ないこと、これらいずれかの傾向が強いことだ。
奥へ進み、作業道の形状がおぼろげになるに連れて、天然スギも立派なものが目立ってくる。
斜面に林立する天然スギは、どれも株立ちして、根元曲がりが少ない。
それに択伐された形跡もある。
鶯宿天然杉は西和賀町沢内では長橋天然杉と呼ばれ、伝統的な施業として“なすび伐り”と呼ばれる択伐が行われていた。
この収穫方法は現在主流の皆伐と異なり、大きく成長した木だけを抜き伐りして収穫するもので、天然杉の特徴を生かした、しかも自然にやさしい施業方法だ。
利点はそればかりでない。
この方法で収穫すれば、その跡に植林をしなくても、同じ株から次に成長した杉を収穫できる。
逆に、皆伐して、跡地に人工造林しても、この辺りは冬は2mを超える積雪地帯なので、立派な森林を造成するのは、経費的にも労力的にも相当困難なものになっただろう。
やがて、道端に朽ち果てた鶯宿天然杉植物群落保護林の看板が忽然と現れる。
この先は作業道もなく、僅かに残る踏み跡を辿って大小屋沢に沿って遡上する。
枝沢も多く、踏み跡は不明瞭な箇所が多いので、地形図を正確に読図する必要がある。
大小屋沢の本流を標高390m付近まで遡上したら、右手に延びる尾根に取り付く。
かなりの急登なので覚悟する。
このような急斜面にも立派な天然杉が林立している。
しかも、伐採された巨大な根株もある。
これだけ条件の悪い場所で、よくぞ伐採し、そして搬出したものだと思う。
おそらくチェーンソーなどの動力の無い時代に、積雪期に伐採し、雪の上を滑り落としたのではないだろうか。
標高470mぐらいで少し尾根の傾斜が緩くなり、天然杉の巨木が目立つ箇所がある。
まるで神社の参道を歩いているかのようだ。
林床にはスギの稚樹が見られ、天然下種更新なのだろうが、株立ちによる更新(立条更新)に比べると、はるかに条件が不利に感じられる。
この辺りからはクロベの巨木も混じるようになる。
下層植生にはイワカガミが非常に多く、花の時期ならば一面がイワカガミの絨毯になるに違いない。
再び傾斜が急になると、やがて広葉樹主体の林相になる。
クロベのほかにはミズナラの巨木が多く見られる。
この尾根道には、僅かながら人が歩いた痕跡が感じられ、太いブナの幹には古い鉈目文字が刻まれている。
「○月○日(氏名)ハラガヘッタカラココデカエル」と書かれた内容からすると、登山ではなく、きのこ採りの人が歩いているようだ。
相変わらず眺望の利かない尾根を登り、植生にブナが目立つようになると、頂上も近い。
傾斜が緩くなり、左側が切れ落ちる痩せ尾根を緩やかにカーブしながら登ると、大小屋山山頂に到達する。
狭い山頂には三角点があるが、樹林に囲まれて展望は全く得られない。
三角点のすぐ脇に、文字が読み取れないぐらい薄れた小さな山名板があり、なぜかそこから少し離れたところに、比較的新しい山名板が掛けられている。
いずれにしても、山名板があるのは嬉しいことだ。
山頂にあるミズナラには、熊棚があった。
下山は来た道を戻る。
今回は写真を撮りながら、さらにルートファインディングしながらだったので、登りに1時間45分、下山に1時間10分を費やした。
既存の作業道を刈払い整備し、登山道として指導標をつければ、鶯宿温泉からも近いことだし、エコツーリズムの対象としてとても魅力ある山だと感じた。
上の背景地図データは国土地理院の電子国土Webシステムから配信されたものである。
ウエブマスター (木曜日, 22 7月 2021 15:34)
昔の列車旅は、移動中も面白味がありました。駅にも「名所案内」の看板があり、駅名表示の下にも「●●郡●●村」とか書いてあるのが好きでした。
白州丸 (土曜日, 17 7月 2021 15:24)
宮城〜岩手〜秋田〜青森と東北縦横断の旅堪能しました。沿線の温泉に入りたい!
画像加工いいですね!!
ウエブマスター (金曜日, 16 7月 2021 23:49)
私が描いたと言いたいところですが、撮った写真を加工したんですよー
でも、文字は女流書家 泉に依頼したものです!
白州丸 (水曜日, 14 7月 2021 16:46)
産業と共に生きた雫駅の歴史が分かります。駅舎のスケッチも良いですが因みに誰のタッチ?
ウエブマスター (土曜日, 13 3月 2021 11:08)
徳永さん、了解しました!
ウエブマスターまでメールいただければ地図を返信いたします!
徳永光保 (金曜日, 12 3月 2021 07:33)
前山の記事 拝見しました。
西和賀方面にこの時期にいけるところを探していたので興味があります。だいたい見当はつくのですが
もしよろしかったらルートの地図をいただけないでしょうか。よろしくお願いします。
ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:38)
chanmikiさん
いらっしゃいませ!
コメントありがとうございます。
日付は更新日でモナドノックは20日にツアーしました。
慣れていないと迷うと思うので、メールいただければ私の地図を送りますよ!
ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:28)
白州丸さん
長いことコメントに気付かずスミマセン
東京は大変ですよね。
ワカサギを食べさせてあげれないのが残念です。
大願成就の次の回、長女と岩洞湖に行きましたが、またしても大漁でした!
岩手は恵まれてますよ!
chanmiki (火曜日, 23 2月 2021 21:07)
初めてコメントします。同じ小学校区、同じピアノ教室だったTです。
数年前からこのブログを見つけて、感動!尊敬!たくさん学ばせて頂いています。
本日23日も、「岩神山から田代牧場へ」を真似っこしようと行ったのですが、雪が少なそうで止め、区界駅2番ホームからの牧野へ行こうかとホームまで行きました。迷って結局、桐の木沢山へ行ったのですが、「モナドノック」を見てびっくり!
でも本日23日じゃないですよね?天気から。
私も単身赴任で106号を使っていたので、北上高地の、しかも地形のプロの記事、とても興味深く読んでいます。もちろん地元雫石のもです!
白州丸 (土曜日, 09 1月 2021 21:04)
コロナ禍で気づく事も多く、人と接せず作業をする一次産業やステイホームで地元を考える機会も多苦なりそれが新しい日常と気づくかもしれません。地元愛と働く人に感謝¡¡
白州丸 (月曜日, 28 12月 2020 11:11)
コロナ禍で始まったこの1年、地表ををすっかり覆ってしまう新雪はしばし巷のゴタゴタも忘れさせてくれます。
白州丸 (木曜日, 10 10月 2019 16:45)
馬愛の結晶でしょうね!優しい表情が印象的です。
ウエブマスター (火曜日, 30 4月 2019 11:10)
徳永様
お久しぶりです!
コメント有難うございます!
丸森良かったですねー
雪もたっぷりで何よりでした。
そろそろクマさんがウロウロしているようです。先日大松倉で足跡を見ました。お互いに気を付けましょう!
いつか、ウロコでご一緒したいです!
徳永光保 (日曜日, 21 4月 2019 20:05)
以前 森林鉄道のツアーでお世話になりました徳永です。本日こちらで紹介されている丸森にうろこテレマークで行ってきました。雪もたっぷり残っていてブナの原生林の雰囲気もよく大変気に入りました。情報参考にさせていただきました。ありがとうございました。
ウエブマスター (日曜日, 22 4月 2018 19:07)
家の前の桜はまだですが、盛岡はすでに満開。テレマークはこれからが良い季節ですよ!
白州丸 (日曜日, 15 4月 2018 15:59)
今シーズンのテレマークもそろそろ終わり?桜も咲き始めましたあ?
ウエブマスター (土曜日, 07 5月 2016 12:18)
白州丸さま
宮古では恒例のuno大会も盛り上がりました!
旧道歩きは発見があって楽しいですね!
白州丸 (木曜日, 05 5月 2016 16:03)
1泊2日の宮古の充実した旅でしたね。女性3名を従え賑やかで大きな天候の崩れも無く良かったです。
白州丸 (日曜日, 06 3月 2016 10:50)
親子の協力、ほのぼのとして少ない成果でも美味しさがギュット詰まっている事でしょう。
ウエブマスター (日曜日, 10 1月 2016 11:41)
白州丸さま
ジムニーで薪運搬!
こういうのって、田舎暮らしならではの楽しさですね!
白州丸 (土曜日, 09 1月 2016 14:13)
有り難いプレゼント、ジムニー大活躍ですね!!
白州丸 (土曜日, 26 9月 2015 17:10)
手を加えた分だけ建物は答えてくれます、又達成感は喜びになるでしょう。
白州丸 (土曜日, 26 9月 2015)
父と娘の縦走、紅葉が綺麗ですね、山ガールも頑張りましたね!!
白州丸 (土曜日, 15 8月 2015 15:52)
見事に蘇りました、15年の歴史がしみ込んだテーブル作業中はいろんな思いも浮かんだ事でしょう。我が家は削って(多分電動鉋?)もらいましたが手作業はご苦労様でした。又新しい家族の歴史(汚れ?)が刻まれる事でしょう。帰ってきた家族もさぞびっくり!!
白州丸 (火曜日, 30 6月 2015 10:19)
テーブル完成おめでとうございます。ここ迄秋田杉を利用できれば樹も喜んでいる事でしょう。無垢板は存在感ありますね!!このテーブルからどんな作品が出来るか楽しみですね
ウエブマスター (日曜日, 17 5月 2015 12:24)
リタイヤじっちゃん様
丸森制覇、おめでとうございます!私はタイミングを逃し、今年は行けず残念でしたが、動画を拝見させていただき、行った気になれました!それにしてもクマにはビックリ!!
リタイヤじっちゃん (火曜日, 12 5月 2015 09:27)
ウエブマスターの丸森ツアー(2013.5.12)でアクセスルートを知ったのは昨年の夏ごろ、それから5月の連休が待ち遠しく長いものでした。途中熊さんの歓迎を受けましたが、楽しく登ることができました。情報ありがとうございました。来冬は須賀倉を頂戴します。(山行記録YouTube”丸森”)
ウエブマスター (水曜日, 29 4月 2015 07:49)
史実探偵さま、コメント有難うございます。なるほど!奥が深そうですねー。
史実探偵:平素人 (日曜日, 26 4月 2015 00:02)
はじめまして^^、ウエブ釜石鉱山で検索訪問しました。ホームのお写真を見て、これが私の広報する、『BC.2001年に地球を半周し東北へ降臨した巨大隕石の核!』 かと思うと胸のたかまりを覚えます。よろしかったら、myブログのカテゴリー;巨大隕石(5) &, 巨大津波(4)へ、どうぞ^^!
小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:24)
シロハヤブサの続編に期待・・豊かな発想に拍手を送ります。
小岩じいじ (日曜日, 05 10月 2014 14:16)
岩手の旅行記は風景写真の見事さと臨場感あふれる文章にいつも感心しています。次号を楽しみにしています。
小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:06)
泉ちゃん堂々の3位入賞おめでとう。又1つ話題ができましたね。来年は優勝目指して下さい。
リタイヤじっちゃん (日曜日, 05 10月 2014 10:09)
体力的に門馬コースは無理ですが、教えていただいた丸森には挑戦させて頂きます。尚、剣ヶ峰山行記録はyouTubeで公開してますがどなたとも知らず貴方の車ときのこ採りの3人には無料出演して頂いでおりますのであしからず。但し誰も見ませんが。(笑)
ウェブマスター (日曜日, 05 10月 2014 00:06)
いやはや!
ニアミスしていたわけですね、リタイヤじっちゃん様!やはり早池峰剣ヶ峰、いい山ですよねー!
今度は、門馬コースにも久々にチャレンジしたいと思っています!
リタイヤじっちゃん (水曜日, 01 10月 2014 18:16)
久しぶりに覗いて見てびっくりしました。9月15日早池峰剣ヶ峰で好青年と交差したことを覚えております。あの時の白髪親父がじっちゃんです。初めて登りましたがいい山でした。
ウェブマスター (土曜日, 07 6月 2014 22:03)
ritzさん、コメント有難うございます!
阿部館山良かったですよ!来年も絶対行きます!その時お会いするかもしれませんね!今後ともこの隠れ家的HPをよろしくお願い致します!
ritz (火曜日, 03 6月 2014 00:16)
はじめまして。
4/13阿部館山の記事拝見しました。素晴らしいところですね。
4月頭に櫃取湿原や青松葉山界隈を歩き(滑り)、斜面や森の雰囲気に感動しました。北上高地は初めて訪れましたが、また行ってみたいと思っています。
これからも岩手の山滑りの記録、楽しみにしています。