雫石町から秋田県仙北市(旧:田沢湖町)に通じる仙岩トンネルを抜けると、深い谷と緑濃き山々が視界に飛び込んでくる。
山々はみな急峻で、その斜面にはブナと思われる広葉樹に混じって天然杉の巨樹が点在している。
そんな和賀山塊北端の山に、ぜひ登ってみたい!
そんな気分に駆られて地形図を開くと、相沢山と記された標高920mの三角点峰が目に留まった。
しかし、地形図では登山道が標高630mの中腹までしか記されていない。
なぜ、こんな中途半端な登山道があるのだろうか。
地形図に表示される登山道は、大抵は頂上までつながっているものだ。
たとえ現場は廃道状態であっても・・・
相沢山について紹介している登山ガイドブックは見たことがないし、インターネットで情報収集を試みても、登山記録はもとより、ほとんど情報は得られない。
そこで、旧田沢湖町立図書館へ行き、資料がないか探してみた。
あった!
秋田の山を全て踏破したという自費出版の記録書がそれだ。
それによれば、登山道について詳細な記述はないが、登りに3時間を要し、山頂付近にはロボット雨量観測施設があると書かれていた。
山の規模を考えると3時間というのは長い気がするので、おそらく藪漕ぎがあるに違いないが、山頂付近にロボット雨量観測施設があるというのは貴重な情報で、なぜなら、施設管理用に登山道があるに違いないからだ。
これで相沢山にアタックする決心がついた。
登山口は、相内沢に沿って林道を詰めて、採石場を過ぎてさらに作業道を詰めた先にある。
作業道脇の少し広い場所に車を止めて、さらに続く作業道を歩く。
しばらく行くと、意外なことに車が5台止めてある場所があった。
車は全て秋田ナンバー
“うーん、実は相沢山は地元の人が良く登る山なのか?!”
その先、さらに状態の悪くなった作業道を行くと、また秋田ナンバーの車ばかり3台止まっていた。
“えっ?実は相沢山は地元の人にとってポピュラーな山だったのか!”
途中で元気のいいおばちゃんパーティーに出会うことを想像しながら、車の通行は不能な状態の作業道を上流へ向かって歩く。
道端にはコンロンソウ、ヒロハコンロンソウが白い花を咲かせていた。
すると、道路の左脇に山へと分け入る急な階段を発見する。
紅白のポールが立っているだけで何も標識はないが、地形図の登山道と確信して、これを登る。
薄暗いスギの人工林の急登でグングン高度を稼ぐ。道は明瞭でしっかりしていて、歩きやすい。
林内にはクルマバソウやラショウモンカズラが多く咲いていた。
ラショウモンカズラはまだ若いためか、一般的なものより丈が低く、色も紫というより青に近く美しい花だ。
高度を稼ぐに従って、やせたスギ人工林に混じって直径1m前後の古いスギの切り株が散見されるようになる。
きっと、かつてここが秋田天然スギの森だったことの証なのだろう。
急登を終えて痩せ尾根に取り付くと、尾根の向こう側は林層が一変する。
直径1m級の天然スギ、ブナ、ホオノキのほかにヒバなど、和賀山塊特有の多様な森林美を味わうことが出来る。
ここで下山してくる2人を発見。話しかけるとタケノコ採りの人たちだった。
相沢山の山頂まで道はあるのか尋ねると、「ちょっと分からないな~」とのこと。
この山は山菜取りの人は多く入るけど、登山者する人はいないのかもしれない。
快適な登山道は続く。
また下山してくる人に会う。
60kgぐらいのザックにタケノコが満載だ。
話を聞けば、アメダスの観測小屋までは道があるけれど、この山で登山者に会うことはないという。
その後も何度か下山者に会ったけれど、結局全てタケノコ採りの人だった。
この山は地域の人々のかけがえのない財産なのだと感じた。
ちなみに、アメダスの観測小屋と言っていたけれど、アメダスの観測地点に相沢山というのはない。それは調査済みだ。
問題は、その観測小屋から山頂までがどのくらいの距離があって、道があるのかどうかということだった。
標高700mを過ぎたあたりから道はさらに立派になる。
勾配の緩い尾根道は幅3mぐらいに刈払われ、快適を通り越して興ざめする。
周囲の森はm級のブナ林が広がっているのに、この道は深山の雰囲気をだいなしにしている。展望は相変わらず利かない。
違和感はあるが快適な尾根道を進むと標高800m地点で初めて展望が開け、秋田駒ケ岳が間近に望まれる。
ただ、それも一瞬だった。
花はユキザサやチゴユリ、サワハコベなどが多く見られる。
しばらく平坦地を進むと、直径150cmぐらいの一本杉が現れる。もちろん天然スギだ。
直径の割りに樹高が低く、厳しい気候の中で耐えてきたに違いない。
この先、すぐ右手に目をやると、樹林越しに相沢山が望まれる。観測小屋のものと思われるアンテナが見えるのですぐに分かる。
観測小屋は山頂のすぐ近くにあるようだ。
山頂が見えると、俄然ファイトが湧いてくる。
道は相変わらず快適で、“これって藪山といっていいのかなぁー”とか、“なぜ地形図ではこんなに立派な登山道が記されていないのかぁー”とか、“なぜ登山対象として認知されていないのかなぁー”などと考えながら雨量観測小屋にそのまま到達した。
他に登山者の姿はない。
そして小屋の周りを一回りしたけれど、三角点はなかった。
小屋の標高は910m弱
山頂までは10mの高低差で距離は250m程度。
しかし、コンパスで確認しても、その方向へ向かう道はない。
ここまで来て山頂を確認しないのは相沢山に対して失礼なので、意を決して藪の海に飛び込む。
高低差がない藪漕ぎは、かえって方向を失いやすい。
背丈ほどあるチシマザサの藪は濃く、切り開きもほとんど探せない。
ただ、笹の茎に所々、ピンク色のビニールテープが結わえられており、これを頼りに牛歩を進める。
“これなら一般登山者は寄り付かないなぁー”とか“ようやく藪山らしくなったなぁー”とか“どうせなら山頂まで少し刈払いしてくれればいいのになぁー”などと思いながら、藪と格闘する。
藪中に咲くムラサキヤシオの鮮やかな花がせめてもの慰みだった。
それでも頂上の三角点の周りだけは笹が刈払われ、すぐに確認できた。
山名標などは一切なく、周囲は笹薮に囲まれて狭く、展望も笹の頭越しに羽後朝日岳が見える以外は利かない。
このように相沢山の山頂は笹原で樹木がない。
そのことが分かった上で、相沢山の山頂を他の場所から確認しようと思うと、それがかなり困難なことが分かる。
標高が920mと結構高いうえ、山腹が急で頂上付近が広く緩やかだからだ。
国道46号線からも見えないし、登山口近くの採石場の高台からも、見えそうで見えない。
確実に山頂が見えるのは、先ほどの一本杉付近ということになる。
誰もいない、笹薮に囲まれた狭い山頂でお昼にする。
笹薮を刈払えば、この山頂も和賀山塊の好展望地として脚光を浴びるに違いない。
位置的に田沢湖線でのアクセスも可能だし、そうすれば駅前の売店にも、駅近くの天然日帰り温泉にもいくらかのお金は落ちるだろうに・・・などと町の振興策を勝手に考えてしまう。
山頂を無事極めることができたので、下山はゆとりを持って植生に注意しながら歩く。
コミヤマカタバミ、コケリンドウなども咲いていた。
そして最後のスギ人工林の急な下りでは、歩道から外れた林内にヤマシャクヤクを見つけることが出来た。
薄暗い人工林に一輪だけ咲く大振りな花は、なんともいえず神秘的ですらある。
ちなみにこの花は、1,2日で落下してしまうというから、今日出会えたのはかなり幸運といえる。
山行の最後にいい思いを出来て良かった。
また、紅葉の時期に登ってみるのもいいかもしれないと思った。
ウエブマスター (木曜日, 22 7月 2021 15:34)
昔の列車旅は、移動中も面白味がありました。駅にも「名所案内」の看板があり、駅名表示の下にも「●●郡●●村」とか書いてあるのが好きでした。
白州丸 (土曜日, 17 7月 2021 15:24)
宮城〜岩手〜秋田〜青森と東北縦横断の旅堪能しました。沿線の温泉に入りたい!
画像加工いいですね!!
ウエブマスター (金曜日, 16 7月 2021 23:49)
私が描いたと言いたいところですが、撮った写真を加工したんですよー
でも、文字は女流書家 泉に依頼したものです!
白州丸 (水曜日, 14 7月 2021 16:46)
産業と共に生きた雫駅の歴史が分かります。駅舎のスケッチも良いですが因みに誰のタッチ?
ウエブマスター (土曜日, 13 3月 2021 11:08)
徳永さん、了解しました!
ウエブマスターまでメールいただければ地図を返信いたします!
徳永光保 (金曜日, 12 3月 2021 07:33)
前山の記事 拝見しました。
西和賀方面にこの時期にいけるところを探していたので興味があります。だいたい見当はつくのですが
もしよろしかったらルートの地図をいただけないでしょうか。よろしくお願いします。
ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:38)
chanmikiさん
いらっしゃいませ!
コメントありがとうございます。
日付は更新日でモナドノックは20日にツアーしました。
慣れていないと迷うと思うので、メールいただければ私の地図を送りますよ!
ウエブマスター (日曜日, 28 2月 2021 17:28)
白州丸さん
長いことコメントに気付かずスミマセン
東京は大変ですよね。
ワカサギを食べさせてあげれないのが残念です。
大願成就の次の回、長女と岩洞湖に行きましたが、またしても大漁でした!
岩手は恵まれてますよ!
chanmiki (火曜日, 23 2月 2021 21:07)
初めてコメントします。同じ小学校区、同じピアノ教室だったTです。
数年前からこのブログを見つけて、感動!尊敬!たくさん学ばせて頂いています。
本日23日も、「岩神山から田代牧場へ」を真似っこしようと行ったのですが、雪が少なそうで止め、区界駅2番ホームからの牧野へ行こうかとホームまで行きました。迷って結局、桐の木沢山へ行ったのですが、「モナドノック」を見てびっくり!
でも本日23日じゃないですよね?天気から。
私も単身赴任で106号を使っていたので、北上高地の、しかも地形のプロの記事、とても興味深く読んでいます。もちろん地元雫石のもです!
白州丸 (土曜日, 09 1月 2021 21:04)
コロナ禍で気づく事も多く、人と接せず作業をする一次産業やステイホームで地元を考える機会も多苦なりそれが新しい日常と気づくかもしれません。地元愛と働く人に感謝¡¡
白州丸 (月曜日, 28 12月 2020 11:11)
コロナ禍で始まったこの1年、地表ををすっかり覆ってしまう新雪はしばし巷のゴタゴタも忘れさせてくれます。
白州丸 (木曜日, 10 10月 2019 16:45)
馬愛の結晶でしょうね!優しい表情が印象的です。
ウエブマスター (火曜日, 30 4月 2019 11:10)
徳永様
お久しぶりです!
コメント有難うございます!
丸森良かったですねー
雪もたっぷりで何よりでした。
そろそろクマさんがウロウロしているようです。先日大松倉で足跡を見ました。お互いに気を付けましょう!
いつか、ウロコでご一緒したいです!
徳永光保 (日曜日, 21 4月 2019 20:05)
以前 森林鉄道のツアーでお世話になりました徳永です。本日こちらで紹介されている丸森にうろこテレマークで行ってきました。雪もたっぷり残っていてブナの原生林の雰囲気もよく大変気に入りました。情報参考にさせていただきました。ありがとうございました。
ウエブマスター (日曜日, 22 4月 2018 19:07)
家の前の桜はまだですが、盛岡はすでに満開。テレマークはこれからが良い季節ですよ!
白州丸 (日曜日, 15 4月 2018 15:59)
今シーズンのテレマークもそろそろ終わり?桜も咲き始めましたあ?
ウエブマスター (土曜日, 07 5月 2016 12:18)
白州丸さま
宮古では恒例のuno大会も盛り上がりました!
旧道歩きは発見があって楽しいですね!
白州丸 (木曜日, 05 5月 2016 16:03)
1泊2日の宮古の充実した旅でしたね。女性3名を従え賑やかで大きな天候の崩れも無く良かったです。
白州丸 (日曜日, 06 3月 2016 10:50)
親子の協力、ほのぼのとして少ない成果でも美味しさがギュット詰まっている事でしょう。
ウエブマスター (日曜日, 10 1月 2016 11:41)
白州丸さま
ジムニーで薪運搬!
こういうのって、田舎暮らしならではの楽しさですね!
白州丸 (土曜日, 09 1月 2016 14:13)
有り難いプレゼント、ジムニー大活躍ですね!!
白州丸 (土曜日, 26 9月 2015 17:10)
手を加えた分だけ建物は答えてくれます、又達成感は喜びになるでしょう。
白州丸 (土曜日, 26 9月 2015)
父と娘の縦走、紅葉が綺麗ですね、山ガールも頑張りましたね!!
白州丸 (土曜日, 15 8月 2015 15:52)
見事に蘇りました、15年の歴史がしみ込んだテーブル作業中はいろんな思いも浮かんだ事でしょう。我が家は削って(多分電動鉋?)もらいましたが手作業はご苦労様でした。又新しい家族の歴史(汚れ?)が刻まれる事でしょう。帰ってきた家族もさぞびっくり!!
白州丸 (火曜日, 30 6月 2015 10:19)
テーブル完成おめでとうございます。ここ迄秋田杉を利用できれば樹も喜んでいる事でしょう。無垢板は存在感ありますね!!このテーブルからどんな作品が出来るか楽しみですね
ウエブマスター (日曜日, 17 5月 2015 12:24)
リタイヤじっちゃん様
丸森制覇、おめでとうございます!私はタイミングを逃し、今年は行けず残念でしたが、動画を拝見させていただき、行った気になれました!それにしてもクマにはビックリ!!
リタイヤじっちゃん (火曜日, 12 5月 2015 09:27)
ウエブマスターの丸森ツアー(2013.5.12)でアクセスルートを知ったのは昨年の夏ごろ、それから5月の連休が待ち遠しく長いものでした。途中熊さんの歓迎を受けましたが、楽しく登ることができました。情報ありがとうございました。来冬は須賀倉を頂戴します。(山行記録YouTube”丸森”)
ウエブマスター (水曜日, 29 4月 2015 07:49)
史実探偵さま、コメント有難うございます。なるほど!奥が深そうですねー。
史実探偵:平素人 (日曜日, 26 4月 2015 00:02)
はじめまして^^、ウエブ釜石鉱山で検索訪問しました。ホームのお写真を見て、これが私の広報する、『BC.2001年に地球を半周し東北へ降臨した巨大隕石の核!』 かと思うと胸のたかまりを覚えます。よろしかったら、myブログのカテゴリー;巨大隕石(5) &, 巨大津波(4)へ、どうぞ^^!
小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:24)
シロハヤブサの続編に期待・・豊かな発想に拍手を送ります。
小岩じいじ (日曜日, 05 10月 2014 14:16)
岩手の旅行記は風景写真の見事さと臨場感あふれる文章にいつも感心しています。次号を楽しみにしています。
小岩 (日曜日, 05 10月 2014 14:06)
泉ちゃん堂々の3位入賞おめでとう。又1つ話題ができましたね。来年は優勝目指して下さい。
リタイヤじっちゃん (日曜日, 05 10月 2014 10:09)
体力的に門馬コースは無理ですが、教えていただいた丸森には挑戦させて頂きます。尚、剣ヶ峰山行記録はyouTubeで公開してますがどなたとも知らず貴方の車ときのこ採りの3人には無料出演して頂いでおりますのであしからず。但し誰も見ませんが。(笑)
ウェブマスター (日曜日, 05 10月 2014 00:06)
いやはや!
ニアミスしていたわけですね、リタイヤじっちゃん様!やはり早池峰剣ヶ峰、いい山ですよねー!
今度は、門馬コースにも久々にチャレンジしたいと思っています!
リタイヤじっちゃん (水曜日, 01 10月 2014 18:16)
久しぶりに覗いて見てびっくりしました。9月15日早池峰剣ヶ峰で好青年と交差したことを覚えております。あの時の白髪親父がじっちゃんです。初めて登りましたがいい山でした。
ウェブマスター (土曜日, 07 6月 2014 22:03)
ritzさん、コメント有難うございます!
阿部館山良かったですよ!来年も絶対行きます!その時お会いするかもしれませんね!今後ともこの隠れ家的HPをよろしくお願い致します!
ritz (火曜日, 03 6月 2014 00:16)
はじめまして。
4/13阿部館山の記事拝見しました。素晴らしいところですね。
4月頭に櫃取湿原や青松葉山界隈を歩き(滑り)、斜面や森の雰囲気に感動しました。北上高地は初めて訪れましたが、また行ってみたいと思っています。
これからも岩手の山滑りの記録、楽しみにしています。